


病気
保険
定年後の再雇用


)を追っかけてましたが…



「幼なじみ」の日記まとめ
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)を追っかけてましたが…



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小さな映画館の前を通りかかったとき、観終わって出てきたばかりの観衆の中に、Iの姿を認める F。
I は長い髪を後ろに一本の三つ編みに垂らし、コートのポケットに両手をつっこみ、どこか放心したような、疲れた顔をしている。
F は、妙な感慨をおぼえてしまう。
夏期休暇中のある日、帰省した北国の湖のほとりで、I と語り合い、一晩を過ごした。
幼なじみと言っていいほど長いつきあいなのに、ある種の親密さをお互い回避し続けてきた。
それが、あの夜だけは、境界線を超えていた。
だから、秋の間は、あまり会わなかった。
学校が違うので、必然的に会う流れもなかったし、F はヘルマフロディトの親友ルールーとばかり会っていた。
I は、部屋を借りて、一人暮らしをはじめたばかり。
秋に彼女の後見人の叔父の家を出た。
念願の自立を果たし、I は伸び伸びとした心境だろうと F は想像する。
F は、映画館の前で I を見なかった振りをしようかと思ったが、視線が合ってしまった。
I が、ポケットに手をつっこんだまま、こんにちは、F。おひさしぶり。と、挨拶する。
F は、なんだか遠い、と思う。
ふたりは、近況をぽつりぽつり語り合いながら、ゆっくり歩く。
I が、部屋に寄らないかと言う。
断る理由もないかと思い、Fはついて行く。
I の部屋へ向かう階段は、塗り替えたばかりのペンキの匂いがぷんぷんする。
Fの脳裏に、十一歳のときの悪夢が映写される。
若い変質者に、同じ匂いの漂う部屋に連れ込まれ、暴行を受けた記憶。
通りで突然羽交い締め、薬物をかがされて気を失い、目が覚めたときには、空き部屋のむき出しの床に、ほとんど何も身につけない姿で横たわっていた。(既に、変質者は消えていた。)
よろけながら浴室へ行って吐いた。
それからしばらく食事がのどを通らず、学校で倒れた。
まもなく、変質者は、別件の殺人容疑で捕まった。
なぜ自分は殺されなかったのだろうという疑問が残った。
相手の顔をはっきりと見たのに。無表情な、彫刻かと見紛うアルビノの美貌を。
あんなことを今思い出すなんて、I の門出を祝いたい気分が台無し。
F は、暗雲を振り払おうとする。
きっと、気が滅入っているせい、どんよりした空のせい。
I の部屋は物が少なく、簡素で清楚な空間。
白い壁と、セレステ・ブルーのカーテン、白い上掛けのかかった飾り気のない鉄製の寝台。アンティークの松材の食卓。
I が、紅茶を淹れながら、
「果物がいっぱいあるの。食べる?」
F は、I と一緒になにかを食べるのも久しぶりだから、I と並んでキッチンに立ち、果物の山を洗うのを手伝う。
「どうしてこんなに?」
F が訊くと、I は、
「果物ばかり食べたくなるときがあるでしょ?」
と返し、手を休めずに言う。
「このオレンジの色、すごく濃い」
「ああ、ほんと。こんな色の髪にしたら気分変わるだろうね」
「あなたなら似合うと思う、オレンジも。でもね、ブルーのほうがもっと似合う」
「君こそ」
「オレンジ色は、目が覚めるほうの色ね。眠くなる色ではないわ」
「そうだね・・・」
「何年も前に、眠くなる色を挙げあったの、憶えている?」
「憶えているよ。ペール・ライラックとか、ネイプルズ・イエローとかだよね・・・」
・・・ペール・アクア、ミスト・グリーン、ベビー・ブルー、ウィスタリア・・・。
ふたりは、果物を洗いながら、眠くなりそうな色を次々に思い浮かべる。
色のひとつひとつに、眠くなりそうなメロディがまといついている。
I が、あくびを噛み殺しながら、何か音楽をかけると言い、流しを離れる。
I が選んだのは、キャバレー・ヴォルテールの“red mecca”。
I はこの頃、インダストリアルにちょっとはまっているらしい。
流しの前に戻った I に、F は呟く。
「“The Crackdown” なんかの方がテンション上がるかもね。」
I は、かすかに笑った。
「上がりたいと思ってないもん」
・・・・・
「そう言えば」
と、F。
「さっき、映画館から出てきたとき、浮かない顔をしていたよね。映画、何を観たの?」
「“哀れ、彼女は娼婦”」
「滅入るわけだ。なんであの映画を?」
「シャーロット・ランプリングのファンだから」
F は、I の横顔を見、ふと思う。
I は、シャーロット・ランプリングに似ている。容姿がという意味ではなく、存在感がなんとなく似ている気がする。
洗った果物を皿に盛りながら、口にも直接運ぶふたり。
果物をテーブルに運び、紅茶を飲み、会話し、それから、寝台の上に並んで横になり、何年か前にはときどきそうしていたように、空間に飛び交う音や、透明な色彩の無数の矢を観察した。
必ずしも同じ音を聴いたり、同じ色彩を見たりするのではないが、それらを動く影像と音色のショーとして無心に楽しむのだった。
そのうち、ふたりとも眠りに落ちた。
ペール・ライラック、ネイプルズ・イエロー、
ペール・アクア、ミスト・グリーン、ベビー・ブルー、ウィスタリア・・・。