お葬式の最中に、リフォームや預貯金の話をする叔父叔母達を見て、近しい人にしかわからない悲しみなのかなと思いましたが、いちばん近い身内のその姿は怖かったです。

そして夫の行動が、さらに私に孤独感を味合わせました。

葬儀以降、夫は顔を見せず、電話一本寄こしませんでした。

自分からかけることはためらわれ、そのまま時は流れました。

卒業してからの私たちは、お互い製造業に就職。夫は交代勤務、私は事務職だったため、金曜の夜に一時間電話で話し、週末の一日を一緒に過ごす日々を送っていました。

変化を嫌う夫は、私が平日に逢いたいと言っても聞くことはなく、週末だけの恋人でした。

その電話もかかって来ず、近所の幼なじみのお母さんが

「鯛子ちゃん、こういうのは仕方ないよ。もっと良い人が見つかるよ」

と慰めてくれていました。

家族もこの話題に触れず、このまま私も忘れられそうだなと思った頃、いきなり電話がかかってきました。

葬儀から一ヶ月過ぎた金曜日の夜でした。

電話に出た私に、夫は何事もなかったかのように、週末はどこに行こうと話し始めました。

戸惑いながらも翌日の約束をし、電話を切りました。

母は、よかったよかったと喜んでいましたが、私の心の中は違和感でいっぱいでした。

え？フッたんじゃないの？

父親が自殺するような恋人はだめだとか、両親にでも反対されたんじゃないの？

なんで、いまさら電話してきたの？

翌日、車に乗った私は運転席の夫に質問をぶつけました。

夫はにこにこしながら、そんなことないよと繰り返しました。

なぜ電話してきたかの問いには

と答えました。

私の中は、ますます違和感でいっぱいになりました。

けれど、ハンドルを握る夫の

という言葉と不機嫌な表情に、結局何も言えませんでした。

そして夫にとっての日常が再開されました。

この時の不機嫌な表情は、このあと頻繁に現れるようになり、私を苦しませることになりました。

しかしどちらも大人になりきれていなかった私達は、日常を取り戻すことが一番大切だと思い込み、私は夫の様々なサインを見逃してしまいました。

サインは、夫の異常性を知らせていてくれたというのに。